獄中連作短歌『百回休み』

ガキの頃 遊んだ山の裏側にこの刑務所は当時からある

パンクスの誇りのゆえに囚われてこのドブネズミなお美しく

刑事さん その段ボールは開けな……うわっ、ブックマークもチェックしないで

自称記者が自称新聞記事により自称報じたおれの職業

好きなだけののしったってかまわないので加害者も「さん」付けで呼べ

彼女とかいない時逮捕されたからいまひとつこう盛り上がらない

護送車のカーテン開けちゃダメなのは中の人のため? 外の人のため?

脱衣所にひしめきあえば入れ墨の侠(おとこ)の中に左翼が一人

独房に悲しき活字中毒者むさぼるように起訴状を読む

就寝を告げるインストゥルメンタルの「ひとり寝の子守唄」はブラック

ひとかどの犯罪者なり 二月目 夢の中でも獄中にあり

今朝読んだ三面記事にでかでかと報じられてた人と談笑

拘置所がもし百人の村ならば村長選の候補百人

冤罪は五パーセントはあるだろう 君も捕まったら分かるだろう

潔白を主張するのか反省をなぜせぬのかと弁護士が言い

公正さなど期待すまい無罪率0・02%の国

いたずらに過激ぶってはいませんか? 切らずに治せ! 左翼小児病

わけあってしばらくお会いできません 文通からとかいかがでしょうか

論理的にものを考えていたのはおれじゃなかった ワープロだった

写真集(ヒロスエ)がいれば平気とふざければすぐ差し入れる支援者がイヤ

久々の椎名林檎の新曲をイントロで切る告知放送

死刑反対! おれだってそう思うけどおまえが言うか内ゲバ党派(セクト)

官本の共産主義の悪口にスターリニストの検閲の跡

難解な専門用語の例「ジャーゴン」 ヒネったギャグはシャバに出て言え

更生を阻む世間様のまなざしに耐えている顔の練習

「償い」に涙していた若き日のカンチガイストの十六年後

新たなる俺伝説の種をまくつもりで聖書とか読んでおく

左手の指先の肉のやわらかさもう三ヶ月ギターを弾かない

おれときたら困ったものだいつまでもサリン気分が抜けきれなくて

いやあテロ組織つってもまだオウムに毛が生えてないようなものです

標的は正しいんだが照準がアバウトすぎるオウムのテロル

麻原はたぶん体外離脱して自由にシャバをうろついている

数多き友との日々をふりかえる傍聴席の空席の数

おれ抜きでみんな楽しくやっている おれが変えようとした世界で

着々と友はキャリアを積んでおり おれの行けない公演の記事

差出人住所末尾に拘置所と書けなかったりわざと書いたり

そういえば君が何年刑務所に入れられたっておれも平気だ

いつまでも若いつもりのおれよりも若い判事に裁かれている

鳴かぬなら裁判官の心証を悪くするから鳴けホトトギス

わかりあう必要なんかないことをわからせるため殴ったのです

裁くのはおれだと決めて判決のつもりで書いた最終陳述

検察が余地を残してくれたので右脳思考で書いた判決

ムチャクチャな判決出すならいっそ執行猶予のついた死刑にしてくれ

ドン!ドン!ドン!では判決を言い渡す 超法規的に原告は死刑!

このおれが有罪なんて裁判長、名誉毀損で訴えますよ

青い目の囚人による英語塾 胸に染み入る仮定法過去

「判決は……厳しかった」とプロジェクトXふうにつぶやいてみる

真島昌利様(マーシーへ) 実刑つきつけられた時クソッタレって言えなかったよ

今月の活動予定がびっしりと判決前のノートを埋める

子を思う母の涙に涙して天動説に転ぶガリレオ

反省をしている顔で法廷に していぬ顔で監獄におり

善良な市民の顔を失って おれ麻原やビンラディンの側

透明な貧困は共感されず 我ら永山則夫となれず

レベル2(ツー) 控訴した人だけの班 控訴棄却が楽しみである

犯人を死刑にしてと自らの手は汚さない者の遠吠え

犯罪者同盟/第二、第三の、そして無数の宅間守を!

フッてから一週間後に恋人を警察に売る女って何?

売春も銃も麻薬も合法化して囚人の数は激減

少年は少年法を議論するセンセイたちを選びようがない

要するに専門バカをさしおいて直接バカが裁くわけだな

ガキどもよ よく聞け 人を殺してはいけない理由なんてないんだ

ゴリゴリの学歴主義者だよおれは 高校中退(ドロップアウト)は東大より上

フランスの学者をまねてフランスの獄を論じる日本の学者

誰もかも皆被害者を気どる今我は加害者たるを誇らん

人間をやめないおれは監獄へ 動物化する世界の中で

リタイアが認められないスゴロクで百回休みのコマに停まった

考えるから犯罪を起こすのだ いっちにっさんしっ! いっちにっさんしっ!

しのこしてきたことのなんと多いこと ツインピークス全部見るとか

案の定思い出せなくなってきたマイナーセブンフラットファイブ

統合が失調してるってのはつまり分裂してるってことじゃねえのか

獄中の我〇〇〇〇〇に転向す 二〇〇三年五月末日

政治犯以外は死刑を廃止する 自由主義者としての結論

戦場はどこだ日本の反戦派 サリン以来の対テロ戦争

人間の矛はもちろん自爆テロ わかってんのか人間の盾

反は脱 デモはウォークの要領で 痴情のもつれをストーカーと呼ぶ

おまえらの罪を一人で引き受けて自伝のごとき新約聖書

反戦は自己満足じゃん 絶対の安全圏からものを言うおれ

運動のピークは常に初期にあり 長続きする運動はゴミ

北朝鮮だけが地名でカッコして長々しいのはただの広告

こんなもん短歌じゃないじゃん標語じゃん ぶっちゃけ政治スローガンじゃん

伝えたい! 尾崎豊のデビューよりYMOの散開は後!

社会派になるべき時にシニカルな笑いに逃げる映画監督

絶対に絶対なものはないという君の思想は絶対ヘンだ

誠実に生きるのはもうやめますとわざわざ宣言する不誠実

君がメタレベルに立って考えをおしつけるなとおしつけてくる

オーウェルの予言は少し早すぎて 二十年後の塀の内外(うちそと)

おれが現代の大杉というよりも大杉栄が大正のおれ

スターリン批判の前のトロツキー主義者のようにおれは生きよう

アッツイ!と叫び湯船を飛び出して照れ笑いするスネークヘッド

イントロで飛び起きちった まさかこんなとこでアナーキー・イン・ザ・UK

隣りには中国人が立っている 四(よん)!と叫んで規律を乱す

新聞は十五分間 革命が起きてもココで人が死んでも

フロイトに訊くまでもなし旨そうな食い物がみな腐ってる理由(わけ)

「綴じ込みの『エッチなあえぎ声つき』の『トレカ』は不許可」とのことである

ヒマなのはよくわかるけど独房でムーンウォークはないだろう、おれ

気がつけばやかんに向かい殺してやる、殺してやるとつぶやいている

妄想はとどまるところを知らずしてとらぬタヌキも群れで活躍

看守共(こいつら)のうち何人かは確実に昨夜セックスしてんだよなあ

マルクスはインテリのアヘンなり おれは非科学的社会主義者なり

スターリン批判の後にスターリン主義者となって生きるのはあり

スターリン役でいいならスターリン主義がいいです にんげんだもの

これからは「えっ、そんなことも知らないの?」「ほら、おれ刑務所長かったから」

鉄格子ごしに眺める夏の空 世界はおれに借りを作った

自由とは 必然性とは 二年目にわかりはじめたマイレボリューション

我々の我々による我々のための政治をめざす我々

カッコいい大人になれたパブリック・エナミーつまり人民の敵

時を経て釈放されてゆく先は男女共同参画社会

政治犯として下獄してよく学び一般刑事犯として出る

監獄で生まれ変わったぼく2さい ドントトラストオーバーサーティ