鹿児島交通違反裁判
「8倍判決」報道批評

 今回の「8倍判決」はそれなりの事件だと思う。
 裁判官が私情で常軌を逸した判決を出したのだから、法治国家の根幹を揺るがす一大スキャンダルに発展してもおかしくはない。
 だが、マスコミはすでに死んでいる。とくに95年のオウム騒動以降は。
 だからマスコミにはもはや何も期待できない。私が『朝日新聞』を購読しているのは単に書籍広告が一番充実しているからで、『朝日』だろうが『読売』だろうが『産経』だろうが、本文記事には斜め読みする価値もない。
 さてその『朝日新聞』は、判決公判を取材しており、閉廷後に唯一、記者がその場で私に直接コメントを求めてきた新聞社だが、判決から5日が経った10月7日現在、今回の件を一切報道していない。『朝日』が好んで取り上げるのは、市民感情を逆なでしたり、いらぬ不安を与えたりしない、「分かりやすい」図式にうまくハマる題材だけで、私が関係する出来事は常にたいていその枠をはみ出している。

 判決の翌日に報道したのが、地元・鹿児島の『南日本新聞』である。テレビ欄側から2回めくった第二社会面にいわゆる「ベタ記事」が載っている。ネット上では読めないようなので、以下に全文引用しよう。

  道交法違反男に
  求刑の8倍罰金
  鹿地裁判決

 交通違反の出頭要請を十数回拒否して逮捕され、道交法違反(通行禁止違反、最高速度違反)の罪に 問われた熊本市本荘五丁目、自称革命家外山恒一被告(三七)の判決公判が二日、鹿児島地裁であった。渡部市郎裁判官は「不合理で身勝手な弁解を述べ、反省の情はみじんもない」として、罰金十二万円(求刑同一万五千円)を言い渡した。
 判決によると、外山被告は二〇〇六年一月十七日未明、鹿児島市千日町の市道をミニバイクで逆走。
同年七月には同市吉野町の国道10号で、法定最高速度を二十キロ超えてミニバイクを運転した。

 今回、この『南日本新聞』だけが私の職業を「自称革命家」と報じた。
 自称新聞社の自称記者に何と書かれようと構わないが、不思議ではある。今回、私は警察でも検察でも裁判所でも、職業については一貫して黙秘を続けたし、にもかかわらず警察は勝手に「自称文筆業」などと発表していたようだが、法廷で検察官は「職業不祥」としていた。裁判官も判決文にはおそらく「職業不祥」と書くだろう(10月7日現在、まだ判決文は完成していないそうだ。法廷で裁判官が読み上げてたアレは何?)。
 『南日本新聞』は独自取材で私の真の職業を嗅ぎつけたのかもしれない。そんなとこだけ頑張ってどうする。しかも「自称」付きだ。どうせ頑張るなら、「自称」ナシで堂々と報道できる「客観的な」職業を究明し、それを私にも教えてほしかった。

 判決の翌日の紙面で報じていたのはこの『南日本新聞』だけである。
 なぜか中2日もおいて、判決の翌々々日の5日付の朝刊で報じたのが『毎日新聞』だ。それに先んじて、同日午前1時9分、同紙がネットで配信した記事は以下のとおり。

  <道交法違反>「身勝手」被告に求刑の8倍判決 鹿児島地裁

 鹿児島地裁は、鹿児島市で一方通行をバイクで逆走するなどし、道交法違反の罪に問われた熊本市の職業不祥、外山恒一被告(37)に対し「検察官の求刑(罰金1万5000円)は著しく軽きに失する」として、このほど求刑を大きく上回る罰金12万円の判決を言い渡した。外山被告は今年4月の東京都知事選に立候補し、「こんな国はもう滅ぼせ」など過激な政見放送で注目を集めた。
 判決では、外山被告は昨年1月、鹿児島市内の一方通行の市道を逆走。同年7月には同市の国道で、法定速度を20キロ超える時速50キロで運転した。渡部市郎裁判官は「悪法には従わなくてもよい、などと身勝手な言い分を述べ、反省の情はみじんも見られない」と断じた。
 外山被告は県警の出頭命令に従わず、今年6月に逮捕され、逮捕後も黙秘を続けたため裁判になった。担当弁護士は「本人は控訴すると言っていた」と話している。鹿児島地検の小原浩司次席検事は「判決は一つの考え方として受け止める」と話した。

 次に『読売新聞』が、これはおそらくネット上だけの配信で(紙面にも掲載されていれば報告求む)、同じく5日の午前11時53分、以下のように報じた。

  求刑の8倍罰金判決、東京都知事選出馬男に鹿児島地裁

 一方通行の道をバイクで逆走するなどして、道交法違反の罪に問われた熊本市の自称文筆業外山恒一被告(37)の判決で、鹿児島地裁(渡部市郎裁判官)が「検察官の求刑(罰金1万5000円)は著しく軽きに失する」として、求刑の8倍に当たる罰金12万円を言い渡していたことがわかった。
 外山被告は4月の東京都知事選に立候補、落選したが、政見放送で「こんな国滅ぼせ」などと過激な発言を繰り返し話題となった。
 2日の判決によると、外山被告は昨年1月、鹿児島市内の一方通行の道路を逆走。同年7月には同市内の道路を、法定速度を20キロ超える時速50キロで運転した。外山被告は反則金の納付に応じず、「裁判で話す」と出頭を拒否し、今年6月、鹿児島県警に逮捕された。

 ほぼ10分後の5日午後0時2分、時事通信も以下のようにネット上に配信した。あるいはどこかの地方紙がこれを紙面に掲載したかもしれないが、未確認。

  判決で求刑8倍の罰金=都知事選候補の外山被告−鹿児島地裁

 鹿児島市内で道路交通法違反罪に問われた元東京都知事選の立候補者で職業不祥外山恒一被告(37)に対し、鹿児島地裁が求刑の8倍に当たる罰金12万円を言い渡していたことが5日、分かった。外山被告は一方通行の道路を逆走したなどとして起訴されていた。同被告は控訴する方針。
 渡部市郎裁判官は2日の判決で、「交通の危険をはらんだもので、看過しがたい」と指摘。「反省の態度はみじんもみられず、独自の見解に基づく理論は採用に値しない」とし、罰金12万円(求刑罰金1万5000円)を言い渡した。
 判決によると、外山被告は2006年1月17日、鹿児島市内の一方通行の市道をバイクで逆走。同年7月10日には、鹿児島から宮崎方面に向かう国道で、法定速度を20キロ超過し、時速50キロでバイクを運転した。

 では最初の『南日本新聞』も含め、以上4紙の報道を比較検討してみよう。
 まず職業に関しては、『読売新聞』が「自称執筆業」と警察発表を垂れ流している。正直、私は「自称革命家」よりも「自称執筆業」の方がムカつく。なぜなら、この『読売新聞』も含め、ほとんどの新聞は80年代末から90年代半ば頃にかけて、私を「フリーライターの外山さん」「文筆家の外山さん」などと報道したことがあるからだ。著作は数冊あるとはいえ、文筆収入はほとんどないに等しいのは、当時も現在も同じだ。それが、逮捕されるやいなや「自称」かよ。
 ただし、この『読売』の記事には1箇所、肯定的に評価すべきところがある。「外山被告は反則金の納付に応じず、『裁判で話す』と出頭を拒否し、今年6月、鹿児島県警に逮捕された」という最後の一文だ。警察の出頭要請に対し、「裁判で話す」としてこれを拒否したことに言及しているから、これがどうも不当逮捕くさいことは、読む人が読めば分かる。
 これに比べて、『毎日新聞』の書き方はヒドい。同紙だけが「出頭命令」となっている。任意出頭の要請は「命令」ではない。
 時事通信は、逮捕されたことへの言及もない。

 文字数の少ないベタ記事で報じた『南日本新聞』以外の3紙は、私が都知事選の候補者であったことにあえて言及している。『毎日』は「今年4月の東京都知事選に立候補し、『こんな国はもう滅ぼせ』など過激な政見放送で注目を集めた」と、『読売』は標題にまで「都知事選出馬男」と掲げた上で「4月の東京都知事選に立候補、落選したが、政見放送で『こんな国滅ぼせ』などと過激な発言を繰り返し話題となった」とそれぞれそれなりの字数をさき、時事通信は単に「元東京都知事選の立候補者で」と
軽く触れるにとどめている。
 好意的に解釈すれば、『毎日』と『読売』は、この異例の判決の背景に、「こんな国はもう滅ぼせ」などという危険思想の持ち主への、政治弾圧の意図が存在する可能性をほのめかしているのかもしれない。
 が、結局のところ4紙すべてが、「それにしても何でまた8倍も?」という読者が当然抱くであろう疑問には答えていない。反省が「みじんも」見られなかったのだとしても、それだけで8倍はあり得ない。『読売』と『毎日』の記述は、むしろ「きっと法廷でも“過激な”言動があったのだろう」と読者をミスリードする可能性もある。
 私がそのつど書いて発表してきたレポートに目を通した諸君には明らかなように、私は別に法廷で何ら“過激な”言動をおこなっていない。
 『毎日』は「悪法には従わなくてもよい、などと身勝手な言い分を述べ」と裁判官の言葉を引用しているが、これは著しく不公平な記述である。私が「悪法」だと云ったのは原付の30キロ制限についてであって、これでは私が道交法そのものを悪法とみなし、一方通行違反まで正当化したかのような印象を読者に与える。

 とにかく、現在のマスメディアはおしなべてこのレベルである。
 4紙の中では、標題まで含めて不当逮捕の可能性を匂わせた『読売』を100点満点中の20点、としたいところだが「自称文筆業」問題でマイナスして10点。判決翌日の朝刊で報じた『南日本新聞』の速報性を評価すべきかとも思ったが、地元紙なんだから当然だ。『読売』以外の3紙はとりあえず単に報道したことだけを認めてそれぞれ5点としよう。報道すらしなかった『朝日』はマイナス100万点ということで。
 まあいずれももはや報道機関を名乗る資格のない「自称新聞社」にすぎないのだから仕方ないか。