鹿児島交通違反裁判
判決公判
(2007年10月2日)
法廷レポート

 10月2日の判決公判の法廷の様子それ自体について報告することは別にない。
 判決公判では、裁判官がただ一方的に判決文を読み上げて、お開きとなる。
 午前9時50分に開廷し、10分ほどで終わった。
 せめてものパフォーマンスとして、「素人の乱」で購入したビンラディンTシャツを着て法廷に臨むつもりだったが、どうやら前回の上京の際に東京に置き忘れてきたらしい。仕方がないので、代わりにレーニンTシャツで出廷した。これはこれで充分にインパクトのあるTシャツなんだが、裁判官に必ずしも教養があるとは限らないから、気づかれなかったかもしれない。
 傍聴席には、熊本から同行してきたスタッフ2名を含め、15人前後。警察官やメディア関係者ではなさそうな風貌の傍聴人も幾人かいた。
 もはやすっかり有名になってしまった例の「8倍判決」を云い渡し、閉廷を宣言して奥の部屋へ引っ込もうとする裁判官に、傍聴席から「ナンセンス!」と声が飛んだ。私も一応、「オトナゲない!」と野次ってみた。裁判官は振り向かなかった。「ありがとう!」と叫べばよかった。

 弁護士に別室へと促され、少し話をした。
 弁護士は、「裁判官は判断を避けたんでしょう」と云った。一方通行違反についてだ。私の走行ルートが私の主張したとおりだとすれば、違法性を問えるかどうかかなり微妙になってくる。有罪判決を云い渡すとしても、それなりの細かな立論をしなければならなくなるし、さらにある程度の刑の減軽も必要になってしまう。そこで裁判官は、私が嘘をついていると決めつけた。そうすれば面倒な立論を避けられる。私が嘘をついていると判断した根拠は単に、警察官は嘘をついていないという裁判官の「心証」であるようだ。もっとも、警察官の証言は私の主張と完全に矛盾していたわけではないから、それをもって私が嘘をついていると断定することにはかなり無理はあるのだが。
 もっとも、今回のケースではそんな分析に意味はない。
 今回、裁判官は単に私情で、態度が気に食わない被告人に対し職権を濫用して常軌を逸した判決を下したにすぎないからだ。

 多くの人が驚いたようだが、私にとっては少しも意外な判決ではなかった。
 私は今回の裁判に、途中からだが、この国の裁判官がいかに幼稚でくだらない人種であるかを明らかにすることを目的として臨んでいたからだ。初公判の後に、「もう交通違反のことなんかどーでもいい」と書いたとおりだ。
 私は過去に、傷害と名誉毀損で計1年半の実刑判決を受けて刑務所に服役した経験を持っている(拘束自体は丸2年)。今回と同じように、いや考えようによっては今回以下の些細な「悪事」を名目に、実態としては、さまざまの法廷パフォーマンスで裁判官を怒らせ、やはり単なる裁判官の私情による職権濫用の被害を受けたものだが、世間には意外にも裁判官の見識なり良心なりに信頼を置いている向きが多いようで、私がいくらそう主張しても、「いや裁判官がそれだけの判決を出したからには、やはりそれなりにひどい悪事をなしたに違いない」ということだろう、なかなか信用してもらえなかった。
 今後はもうそんなことはないだろう。少なくとも私というキャラクターに対しては、この国の裁判制度が正常には機能しないことを、今回、充分以上に明らかにできたはずだからである。
 すでに公開した2回の公判のレポートを読めば分かるとおり、私は法廷において、例えば暴言を吐くとか物理的に暴れるとか、そういう方向での振る舞いは一切していない。法廷を侮辱する意図があったことは認めるが、今回のような判決を出す裁判官は侮辱されて当然だし、私はそもそも過去に2度も今回と同じような不当判決を受けているのだから、この国の裁判制度を心の底から軽蔑する資格がある。 それに、法廷侮辱が問題なら、それはまた別の罪として、別枠で堂々と立件すべきなのだ。こいつは法廷を侮辱しているから、それに対する処罰も組み込んだ判決を出してしまえというのでは、法治国家は成り立たない。まあ、現に成り立っていないんだが。

 今回の判決が不当であることに疑いの余地はない。
 「当然だ」「ざまあみろ」みたいな反応を示す奴らはたくさんいるようだが、連中は前回までの公判レポートを読みもしない怠慢野郎か、読んでも意味が分からない文盲か、あるいはそもそも最初から私に敵意を抱いている手合いにすぎず、相手にするだけ時間のムダだ。
 事実関係を可能なかぎり確認して、自分のアタマで考えることができる人間であれば、他のところでの私のさまざまな主張や言動に賛同できるかどうかはともかく、少なくとも今回の判決に関してはムチャクチャであるという以外の結論は出ないはずだ。

 それにしても検察官に罰金1万5千円を求刑された時には一瞬どうなることかと思った。司法のろくでもなさを暴露してやろうと体を張って頑張ったのに、そもそも警察から要求された反則金と同額というのでは、革命家として恥ずかしい。
 しかし私は、裁判官は信用ならないという一点に関してはミジンも疑いを抱かなかった。裁判官を信用しよう、裁判官は必ず、検察官が組織人として示した良識を無視して、ムチャクチャな判決を出してくれる。
 で、「8倍判決」。
 私が唯一恐れたのは、「罰金1万6千円」という判決だった。裁判官がそのオトナゲナイ自尊心を表現しつつ、しかしそのことはあくまで象徴的なレベルにとどめて、世間から「おいっ」と突っ込まれることもない、むしろ「粋な判決」と思われなくもない、そんな判決が書けるような裁判官なら一枚上手、私は完全敗北を宣言しなければならなかったろう。控訴も断念したかもしれない。

 裁判官を信じてよかった。