鹿児島交通違反裁判
判決
(作成:鹿児島地裁 渡部市郎 )
2007年6月20日

 平成19年10月2日宣告 裁判所書記官 〇〇〇〇
 平成19年(わ)第182号

     判決

 本籍 鹿児島県霧島市隼人町……
 住居 熊本市本荘5丁目……
 職業 不祥

   外山恒一
   昭和45年7月26日生

 上記の者に対する道路交通法違反被告事件について、当裁判所は、検察官満枝久志及び国選弁護人〇〇〇〇各出席の上審理し、次のとおり判決する。

    主文

 被告人を罰金12万に処する。
 未決勾留日数中10日を、その1日を金5000円に換算して、その刑に算入する。
 その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。

    理由

  (罪となるべき事実)

 被告人は、
 第1 法定の除外事由がないのに、平成18年1月17日午前1時41分ころ、道路標識により一方通行と指定された鹿児島市千日町13番1号付近道路において、同標識を確認しこれに従うべき注意義務があるのに、同標識を確認しなかった過失により、同標識の表示に気付かないで、その出口方向から入口方向に向かい、原動機付自転車を運転して通行し
 第2 同年7月10日午前11時17分頃、同市吉野町10794番地74付近道路において、法定の最高速度(30キロメートル毎時)を20キロメートル超える50キロメートル毎時の速度で上記車両を運転して進行し
 たものである。

 (証拠の標目)[括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号を示す。]
 判示事実全部について
 ・被告人の当公判廷における供述
 判示第1の事実について
 ・証人嶺岡豪の当公判廷における供述
 ・警察官作成の捜査報告書(甲1、8)
 ・警察官作成の実況見分調書(甲9)
 ・交通事件原票(甲2)
 ・交通規制台帳抄本(甲3)
 判示第2の事実について
 ・警察官作成の捜査報告書(甲6)
 ・速度測定カード(甲5)

  (事実認定等の補足説明)
 1 弁護人は、判示第1の事実について、被告人は、検挙場所である地蔵角交番前交差点(以下「本件交差点」という。)付近から東方向に向かって原動機付自転車で運転を開始したところ、目的地の飲食店の方向でないことに気が付き、次の交差点(以下「東側交差点」という。)に至る前に転回し、西に向かって進行中、一方通行違反で検挙されたが、本件交差点から転回場所までの区間には一方通行の標識はなく、被告人には一方通行の規制の効果は及ばないし、過失もないなどとして、無罪を主張し、被告人も、公判廷において、同旨の供述をしている。
 そこで検討するに、被告人の通行を現認して検挙した警察官である嶺岡豪(以下「嶺岡」いう。)は、公判廷において、地蔵角交番前に立って交通違反の取締り等に当たっていたところ、被告人運転の原動機付自転車が東側交差点方向から本件交差点に向かって進行してきたので、被告人を一方通行違反で検挙した、被告人が言うような転回の事実は現認していないと供述している。
 この嶺岡供述は、具体的かつ明確で、内容的に不自然・不合理な点もなく、逆行車両の取締りを念頭に置いて、東方向を注視していたところ、被告人車両が西進してきたという視認状況からも、見間違い等は考え難いところであって、十分信用できる。
 ところで、嶺岡の立っていた位置からは、本件交差点と東側交差点との間の道路のほとんどが視野に入り、東に向かって右側車線の一部が死角に入るものの、一方通行標識に至るまでの左側車線は全部見通ことができる状況であるから、被告人が供述するように、本件交差点と東側交差点付近の一方通行標識までの区間で転回した事実があるのであれば、その状況は当然嶺岡の視野に入ると考えられる。しかし、嶺岡供述に寄れば、被告人車両が転回した事実は現認されておらず、嶺岡は被告人車両が東側交差点を経由して進行してきたものと認識していたのであり、嶺岡供述と本件交差点付近の客観的な道路状況を総合すると、被告人車両は東側交差点を経由して本件交差点に至ったものと認められる。
 被告人の供述は、これに反するのみならず、公判段階になって突如述べられた唐突なものである上、発進してすぐに転回したという点がそもそも不自然との感が否めず、被告人がこの付近でストリートミュージシャンとして活動しており、この付近の地理にも精通していると考えられることからすれば、転回した理由について述べるところもにわかに納得し難く、信用できない。
 以上からすれば、被告人は、東側交差点から本件交差点に向かって進行する際に、一方通行標識があるのを十分認識できる状況で、これを見落として進行したのであるから、被告人に過失があることが優に認定できる。

 2 なお、被告人は判示第2の事実についても、無罪とされるべき旨をるる主張するが、独自の見解に基づくものであって、採用するに値しない。

  (法令の適用)
 被告人の判示第1の所為は道路交通法119条2項(平成16年法律第90号23条により同法による改正前の道路交通法119条1項1号の2)、道路交通法8条1項、4条1項、同法施行令1条の2第1項に、判示第2の所為は同法118条1項1号、22条1項、同法施行令11条にそれぞれ該当するところ、判示第2の罪について所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法45条前段の併合罪であるから、同法48条2項により各罪所定の罰金の合計額の範囲内で被告人を罰金12万円に処し、同法21条を適用して未決勾留日数中10日を、その1日を金5000円に換算して、その刑に算入することとし、その罰金を完納することができないときは、同法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用については、刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
 なお、被告人は、自己の職業を明らかにせず、その結果、収入や現在の資力等も判明しないので、刑事訴訟法181条1項ただし書に該当する事由があるとは認められない。

  (量刑の理由)
 本件の違反事実がいずれも交通の危険をはらんだ看過し難い内容のものであること、被告人が、判示第1の事実について不合理な弁解を述べ、かつ、第2の事実について独自の論理を展開し、悪法には従わなくてもよいなどと身勝手な言い分を述べ、公然と法無視・法軽視の態度を表明し、交通事故が減らないのは裁判官の責任であるなどと自己の非も顧みず責任転嫁の態度に終始しており、反省の情は微塵も見られないこと、このような被告人の応訴態度に加え、被告人には平成13年に傷害で、平成15年に名誉棄損で、それぞれ実刑に処せられた懲役前科2犯があり、交通違反歴も複数あって、被告人の遵法精神の欠如が顕著であることなどを考慮すると、本件の違反がいずれも反則行為に当たるもので、判示第1については過失であるなど、被告人のために酌み得る一切の事情を考慮しても、被告人を寛刑とすることは法治国家における法秩序維持等の観点から妥当ではない。そうすると、検察官の罰金1万5000円の求刑は本件の個別情状に照らして著しく軽きに失するといわざるを得ないところであって、被告人に対しては主文の罰金刑が相当であると判断した。
 よって、主文のとおり判決する。
  (求刑 罰金1万5000円)

 平成19年10月12日
 鹿児島地方裁判所刑事部
 裁判官 渡部市郎