『人民の敵』第7号(2015.4.1発行)


コンテンツ3
〈蔵出し・ヒット曲研究会〉with ペペ長谷川・二木信・山本夜羽音、他
〈正規版“購読”検討用・抜粋〉


二木 二木信です。職業的音楽ライターをやってて、仕事の対象は主に日本のヒップホップだけど、仕事以外でもいろいろ幅広く聴いてはいます。ただこの10年ぐらいは“ヒット曲”にはあまり縁がないですね。03年ぐらいから、日本のヒップホップが面白いと思い始めて、アウトサイダーのリアリティをちゃんと語る音楽が出てきたぞ、と。Jポップにはない言葉遣いをする音楽ばかり聴いてきたので、逆にこういう集まりにも参加してみたかったんですよ。
ペペ まあ一般の読者から見たら“スカした奴”ってことで(笑)。
のら 二木君もカラオケは好きじゃん。
二木 うん。
のら カラオケで歌う音楽と、ふだん聴いてる音楽にギャップがあるでしょ。
二木 そうだね。
のら カラオケではやっぱり昔聴いてた歌謡曲とかになっちゃうよね。
外山 あんまりカラオケでヒップホップは歌わないだろうしなあ。
のら 若い頃はまだ、ドラゴン・アッシュとか覚えて歌ってみたかったりしたけど。
コジエ こないだ挑戦してみたけどやっぱり無理だった(笑)。
外山 二木君はこの10年ぐらいでアンテナに引っかかってきたJポップって何かあります?
二木 スマップにはいい曲があったりしますよね。
外山 詞や曲も、アレンジや演奏も、“職人芸”が発揮されてるような曲が多いよね。
二木 楽曲としていいものが多いし、やっぱりそういう耳で聴いてしまう。
ペペ やっぱりスカした奴だ(笑)。
二木 開始早々そういうキャラ設定に落とし込むの、やめてくださいよ(笑)。
外山 かつてのヒット曲研での酒井隆史(註.現在は著名な社会学者。ヒット曲研の単行本『ヒット曲を聴いてみた』98年での名義は「マオ」)の立ち位置だね(笑)。


のら オレらの世代的には、スチャダラパーの「今夜はブギーバック」が大きかった。当時はまだヒップホップはそんなに日本では定着してなくて……。
外山 あの年に「今夜はブギーバック」と「DA.YO.NE」が同時にヒットしたんだよ。
のら そうだそうだ。だけどまだ「ヒップホップって何?」って感じで……鹿児島だったし(笑)。
二木 “鹿児島”を強調してくるね(笑)。
のら 情報源がないんだもん。“ヒッポホップの格好”とかも、みんなどうしていいのか分からないんだ。とりあえずなんかデカい、ダボダボの服を着ればいいらしい、みたいな(笑)。CDを借りに行っても、どれを借りたらいいのか分からなかったし。『宝島』とか読んでる友達さえ1人もいなかった。
ペペ こういうスカした人を見ると許せないでしょ。
のら いや、羨ましいですよ。関東圏に住んでるってだけで、もう。
二木 そもそもスカしてないし(笑)。
ペペ スカしてるよ。
のら おれなんかからすれば、まったく鼻持ちならない。
外山 エリートだね。
二木 おれのどこらへんがエリートなんだ(笑)。
ペペ それを自覚してないってのが問題だよ。
のら 高校時代にボアダムズを聴いてる友達がいたとか、鹿児島では考えられない。
ペペ 今日はこの二木問題を軸に議論すべきだ。
二木 ええーっ!?(笑)
外山 地方と東京の文化格差の問題は重要。
二木 おれ茨城だよ(笑)。


  (湘南乃風「純恋歌」について討議中)
のら でもサラリーマンがこの曲をカラオケで歌ってる情景は浮かばないでしょ? ヤンキーが歌ってる絵しか浮かんでこないよ。
ペペ フツーの人が歌ってるんじゃない?
のら こんなの歌いますかねぇ……。
コジエ ヤンキーに限らず、若い男の子が歌ってそうだよ。
外山 ちょっとイキがってる感じのね。
のら 成績のいい子でも歌ってそう?
二木 そう云われるとちょっとイキがってる感じはある。
のら 「パチンコ屋に逃げ込み」とか云っるし。
外山 優等生はそんなとこに逃げ込まないね(笑)。
コジエ ヤンキーだけでなく、今で云う“B系”の子とかも一種の“ワル”でしょ。そういう普段はちょっとワイルドな感じの子が、実はこんなピュアな部分もあるんだよっていう。
外山 のらねろさんが云ってるのも“ヤンキーそのもの”ってことではないでしょ? ヤンキーの周辺にいる、およそ空気を共有してるような層ってことで。
のら うん。そんな感じがしますね。女を取った取られたで騒いでる気がするでしょ、ジャージの集団が(笑)。


  (YUI「マイ・ジェネレーション」について討議中)
コジエ すごく気になるフレーズは、“窓ガラス割るような気持ちとはちょっと違ってたんだ”っていう……。
ペペ うん、そこがポイントですよ。尾崎を引き継ぐ部分と、違う部分と。
外山 そうだね。
コジエ このフレーズは明らかに尾崎を意識してる。
ペペ 尾崎さんのように闘えればよかったんだけど、“ちょっと違うんだ”、と。
外山 そのへんが、尾崎とかとは違う自分たちの“ジェネレーション”なんだってことなんだろうね。
夜羽音 しかしそもそも尾崎は“闘ってた”のか?
のら 闘ってましたよ。
ペペ 深刻な論点だ。


  (RADWIMPS「オーダーメイド」について討議中)
外山 さっきコジエさんも云ってたけど、要するにまあ、“草食系男子”だよね。
のら だけどやっぱりこういうので売れるのがすごいよ。たぶん無力無禅寺みたいな小っちゃいライブハウスなんかでこういう音楽をやってる奴らはゴロゴロいると思うけどさ。
コジエ それでも完成度が高いんだよ。
外山 それなりの“ロック教養”を背景とした曲作りで、しかも詞が良いから。
桜子 これだけの字数を費やさないと恋愛の1つもできないような精神的カタワってことですよね。
のら うん、さすが桜子ちゃん(笑)。
ペペ “草食”批判ですね(笑)。


  (青山テルマ feat. SoulJa「そばにいるね」について討議中)
二木 要は失恋の歌でしょ。
コジエ 失恋っていうか……。
二木 片想いの歌でしょ。
桜子 遠距離恋愛ですよ。
二木 ん? そうだっけ?
コジエ “離れてるけどそばにいるね”っていう。
のら 男の方がラップで“お前は元気か、ちゃんとメシ食ってるか”って云ってるし。
外山 “友達できたか? お金はあるか?”と(註.それはさだまさしの「案山子」)。
コジエ この曲に限らず、ソルジャの喋りって……。
外山 “ラップ”とは認めないんだ。“喋り”(笑)。
コジエ 歌詞の本来の雰囲気とギャップがありすぎる。
夜羽音 まったく歌の趣旨を理解してない感じだよね。
コジエ “あなたに会いたい”とか“待ってる”とか“そばにいるね”とか女が歌ってるのに、いきなり“んなことより”って……失礼だよ(笑)。


  (アンジェラ・アキ「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」について討議中)
二木 合唱コンクールで歌う曲って、おれらの頃はヒット曲とかではなかったしね。
外山 “昔のヒット曲”だったよね。「あの素晴らしい愛をもう一度」とか、「翼をください」(赤い鳥、71年)とか。
二木 そうそう。リアルタイムのヒット曲ではなかった。
外山 それを今は“理解ある大人”によって子供が感動しそうな曲が提供されてるわけだよ。それは一種の“囲い込み”だと思うよ。
二木 うん、そこらへんが最大の問題だ。
ペペ 大人の側も自信がないし……。
外山 そうだね。大人が子供に媚びてる歌でもある。むしろ大人が子供に理解されたがってるというか、“理解ある大人”として受け入れてほしいっていう、それが透けて見えるからますます気持ち悪いんだ、この歌。
ペペ 昔の合唱曲ってほんとにヒューマニズム礼賛で、“生きることは素晴らしい”みたいなものだったけど、今は大人もそれを簡単に云えなくなってるという側面もあると思う。
のら そうかもね。だからこういうちょっと暗い感じになっちゃうのかも。
ペペ 先生が仕事が忙しすぎてヒイヒイ云ってるぐらいだもん。
外山 そうか。子供がこんな感じというより、むしろ実は大人がこんな感じなんだ。
ペペ そうそう、そういうことだよ。
外山 で、“大人も一緒なんだよ”って表明することで子供に嫌われないようにしてる。
二木 たしかにそんな感じもするね。
ペペ 大変な時代になってきた。大人も子供も大変なことになってる。


  (SEAMO「コンティニュー」について討議中)
ペペ 外山君をはじめ旧ヒット曲研の人たちが問題にしてきた“がんばれロック”が現代にもこのようにして生き延びてる、と。
外山 というか、むしろそんなのばっかりじゃん。YUIもいきものがかりもアンジェラ・アキも全部そうだし(笑)。
ペペ まあそうだけど。
外山 湘南乃風もだな。
二木 だけど“応援ソング”の中でも相当“極致”だよ。
のら ヒドいね、これは。
夜羽音 バブル期に台頭してきた“がんばれソング”は、頑張れば頑張ったなりの“見返り”が期待できる中での“がんばれ”だったけど……。
外山 もはやなんか、いたずらに頑張らされるっていうね。
ペペ “見返り”なんかまずないがゆえにそうならざるをえない。
コジエ 頑張れるだけ頑張らされた末に堕ちていった時に、責任とってくれるのかって話だよ。
ペペ 責任はアンジェラがとってるんです。
のら ちゃんとアンジェラが待機してる、と(笑)。
コジエ こんなの聴いてたら、単純な子は、こんなふうに頑張れない自分はダメな人間だと思ってしまうよ。
のら そうだよなあ。何を頑張っていいのかも分からないのに。
ペペ だからアンジェラが“苦しい中でも生きよう”って歌ってくれてるんだよ。
二木 あるいはYUIを聴いてドロップアウトするか……。
外山 YUIはYUIでまた別種の“がんばれ”だからなあ。
コジエ アンジェラにまで“がんばれ”って云われて、それでもダメならもう死ぬしかないじゃん。
ペペ それが現代社会なんですよ。
外山 さっきコジエさんがアンジェラ・アキについて、負けたり泣いたりすることがダメなことのように歌っててケシカランという話をしてて、一方こっちのシーモは“泣いた後でも問題ない”とか“負けたら終わりじゃなくて”とか云ってるんだけど……でもそういうことじゃないよね(笑)。
夜羽音 だって結論は“ずっとずっとコンティニュー”なんだもん。
ペペ 要するに“セミナー系”(笑)。