『人民の敵』第5号(2015.2.1発行)


コンテンツ1
〈対談〉with 山下陽光
〈正規版“購読”検討用・抜粋〉


山下 佐賀がヤバいっすよ、佐賀空港。
外山 “空港”がヤバいの?(笑)
山下 ヤバいんすよ(笑)。もう楽園みたいなところで、周りが360度ぜんぶ田んぼなんです。海なんじゃないかって思うぐらい、何にもないんです。田んぼしかない(笑)。それってたぶん季節ごとに変化があるじゃないですか。緑の時もあれば茶色の時もあるだろうし……。
外山 ただ水が張ってあるだけの時もあるでしょうね。
山下 そんな中をずーっとクルマで走って空港に着くと、1日50人ぐらいしか使ってないんじゃないかと不安になるぐらいのところで、駐車場も無料なんですよ。「1ヶ月以上停める方はご連絡ください」とか書いてある(笑)。最高だなあって。“春秋航空”っていう中国の格安航空会社が、毎月7日がセールの日で、東京まで764円とかなんです、成田まで。
外山 そんなに安いのか(笑)。
山下 なのに人気がなくて売り切れない(笑)。セールじゃない時でも5千何百円か。すごいですよ、佐賀空港。ほんとに何にもないんです。ホテルも1軒もないし。ココは大村空港も近いんですけど、空港の近くに住むのは超オススメですよ。
外山 福岡はそもそも空港がメチャクチャ近いからね。
山下 そうか。でも福岡だと、東京での生活とあんまり変わらないんじゃないかと思う。超大都会で……。
細君 ビックリした。
山下 ひっくり返ったよ。


山下 別府(大分県)にG君ってのがいて、インディー・バンドの呼び屋みたいなことをずっと東京でやってた人。別府の実家に最近戻ってきて、別府でもそういうイベンター的なことを続けるつもりらしくて、なかなか面白いですよ、G君。
外山 この2年ぐらい九州あちこち行ってみると、大分が一番面白い。
山下 別府ではなく?
外山 いや、別府と大分は10キロぐらいしか離れてないから、ほぼ1つのエリア。観光的にも素晴らしいですよ。とくに高崎山、素晴らしい。
山下 別府みたいな温泉地の、ならず者がいっぱい来そうな感じというか、流れ者が流れて来ることに慣れてる感じがいいですね。風俗と温泉が入り乱れてるような街だった。
外山 6年前かな、「どくんご」が初めて大分公演をやって、客が3人ぐらいしか入らないという悲惨な公演だったんだけど(笑)、それが別府なんだ。別府駅のすぐ目の前の空き地で、建て込みをやってたら2人組のギターとアコーディオンの“流し”のジイサンが挨拶に来て、まだこんな人たちがいるんだって驚いた。その後どっちかが亡くなっちゃったらしいけど。別府が素晴らしいのは、若者向けの今ふうのオシャレなバーと、“昭和”感の漂う昔ふうの飲み屋と、ストリップとかポルノ映画館みたいなイカガワシい店が、同じ1つの狭いエリアにびっしり詰め込まれてるところだね。
山下 空襲にも遭ってなくて、昔の街並がそのまま残ってるらしいんですよ。だけどそのことを誰も“ありがたい”とか思ってなさそうな感じが最高なんです(笑)。
外山 大村の街もさっき見て回ったけど、今はもう県庁所在地クラス以外の地方都市はどこでも中心街のアーケードが“シャッター街”化してて、見るからに悲惨じゃないですか。別府は例外的に大丈夫な感じ。
山下 実際には“終わってる”のかもしれないけど、何か面白い街なのは確かですよ。
外山 「アジア太平洋大学」とかいう怪しい大学もあってさ。立命館の系列らしいけど、学生の半分ぐらいが留学生みたいなんだ。だから夜の街にも外国人の若者がいっぱい歩いてるんだよね。
山下 ああ、そうだった。
外山 別府大学ってのもあるし、若者自体が多いし、飲み歩いてるし、観光客も含めて外人さんもやたら多いし、ちっとも寂れてない。


外山 ……今日はすっかり“まったり対談”になってるね。
山下 そうっすね。なんか風呂上がりの会話みたいな(笑)。
外山 テープ起こしして面白いのかっていう(笑)。
山下 スン(娘。0歳児)がたびたび会話を中断させるんで、なかなか話が拡がらない(笑)。どっか外に飲みに行きましょうか。行きたい店とかあります?
外山 さっき繁華街というか、アーケードとその1本隣りの飲み屋街の、看板だけ見て歩いてジャズバーらしきものを1軒見つけたぐらいで、特に気になる店は見つけられなかった。
山下 じゃあそのジャズバーに行きますか?
細君 だけどパンク系のライブハウスとか……。
山下 そうそう、昔はライブハウスも4軒ぐらいあったんです。10年ぐらい前までメチャクチャ盛り上がってた。
細君 それを考えたら、ロックバーとかも残ってそうじゃない?
山下 まあね。
外山 たしか陽光さんはそもそもココ(大村)じゃなくて隣の諫早の出身なんでしょ?
山下 そうです。
外山 “ガムテープ男”とは知り合いました?
山下 それは誰ですか?
外山 森耕(もり・たがやす)って名前で活動してる……何なんだあの人は(笑)、パフォーマーかな。普通のサラリーマンみたいなスーツにネクタイの格好をして、実際ふだんはサラリーマンなんだけど、顔だけガムテープでぐるぐる巻きにして舞台に登場して……何かやるんだよ(笑)。“何かやる”としか説明のしようがない。5分10分、毎回内容は違う、意味も脈絡もたいていよく分からない行動を、終始無言の場合もあれば何か喋ることもあるんだけど、とにかく“何か”やった上で、やっぱり意味不明なタイミングで唐突に舞台から去るっていう……まったく伝わらないよね(笑)。
山下 へー(笑)。諫早在住なんですか?
外山 うん。諫早で高校まで過ごして、福岡の九州大学に進んで、九大の学生運動の最後の世代の人。ぼくの2つ上ぐらい。院の途中まで行って、諫早に戻ってサラリーマンを続けてる。今でも諫早での生活と福岡の前衛アングラ芸術シーンでの活動を往復してるんじゃないかな。
山下 朝日新聞のKさんって知ってます?
外山 知らない。
山下 素人の乱界隈を何度か取材してた人が今は諫早に赴任してて、そのうち飲みましょうって話になったきりなんだけど。
外山 新聞記者は全国各地に派遣されるからね。地方の人は“ウチには何にもない”とかすぐ云うけど、よくよく探せば実はいろんな事情でヘンな人がしばらく住んでたりとかするんだ。


山下 だけどやっぱり外山さんほど誤解されまくってる人もなかなかいませんよね(笑)。演者がいて売り子がいるというか、プレーヤーとは別にそれを“売る”人というか、まあ編集者みたいな役割もそうだけど、その位置にいる人たちが今、プレーヤーをちゃんと評価できなくなってると思うんですよ。テレビに出てる男の人ってほとんど全員30代以上じゃないですか。「嵐」も30代だし。オレらは10代、20代の頃から同い年ぐらいの人がテレビにいっぱい出てたでしょ。そういう感じになってない今の世代はすごく可哀想だなあって。誰か面白い奴を見つけて売り出そうって役割の奴らが年をとってもずっとその位置に居座り続けてるのかもしれない。若い連中がそもそも人数として少ないし、そんなの相手にしても商売にならないってことなのか、ユース・カルチャーがまったく育たない状況はすげえ可哀想。若い奴は若い奴でいろいろ考えてるだろうし、それはオレらが考えてることより絶対面白いはずじゃないですか。その人たちがクローズアップされることがなくて、30代、40代、さらには50代、60代の文化状況にしかなってない。
外山 この2週間ぐらいかなあ……“サスプル”とかいう学生デモが話題になってるじゃん。
山下 ああ、聞いたことあります。
外山 だけどあれは50代、60代が「面白い!」と感じる“若者の動向”にすぎないでしょ。
山下 まあそうですよね。
外山 ああいうのとはまったく違うところに、もっと大多数の……いや“大多数”はそもそもどうでもいいんだけど、ぼくの世代で云えば“ブルーハーツ”や“(88年の)反原発”に熱くなってたような、その世代の“少数派の中の多数派”が夢中になる対象がきっとあるはずで、それは“サスプル”とかでないことは確かだよ。あんなのは60代とかが“期待する若者像”にすぎない(笑)。
山下 外山さんがブルーハーツを聴いてるぐらいの若い頃に、プレスリーやエディ・コクランのコピーバンドをやってジジイに感動されてるような感じですよね。
外山 新聞で取り上げられたりしてね、“今、若者たちがロカビリーを”みたいな(笑)。まるでそれが社会的に何か重要であるかのようなトンチンカンな報道がおこなわれる。本当に重要な若者文化は、もっと大人たちが眉をひそめるようなものであるはずじゃん(笑)。
山下 そうだと思う。
外山 「感心な若者たちが声を上げてくれた」みたいに褒めそやされるようなものが“本物”であるはずがない。
山下 オレや外山さんですら「さすがにそれは違うわ……」って云うぐらいじゃないと(笑)。
外山 そうそう。
山下 だけど彼らは外山さんのこと好きらしいですよ、とか(笑)。
外山 「いやいやいや……」ってこっちを戸惑わせるぐらいのね。
山下 だけど外山さんが「どついたるねん」とか「フジロッ久」を知らないってのが結構新鮮だった。
外山 何それ? ……って前にも訊いたんだろうけど(笑)。
山下 パンクバンドで、外山さんの影響とかバリバリに受けて活動してる連中なんですよ。
細君 高円寺で。
山下 超カッコいいし、面白いですよ。
外山 ドツイタルネンというのは平仮名?
細君 うん。
外山 フジロックは片仮名?
細君 “フジロッ”までは片仮名で、“ク”は“久しい”って漢字。正確にはさらにその後に「(仮)」って付いてる。
外山 そんな人たちがいるんだ。高円寺界隈のインディーズ・バンドの動向とか、まったく知らないからさ。


山下 近道しましょう。
外山 市街地を飲み歩くのとは違う感じだな。
山下 川を渡らなきゃいけないんだけど、遠回りしなきゃいけなくなるんで……そこに橋みたいなのがあります。
外山 うわっ、すごいね。幅1メートルもなさそうじゃん(笑)。
山下 70センチ(笑)。
外山 (渡りながら)これは楽しい(笑)。
山下 ……だけどこっちに来てたら、誰かと街に飲みに行くなんて初めてですよ。2回目かなあ。ウキウキが止まらないっすよ(笑)。
外山 実際に始めちゃうと“地方での生活”もそれなりに楽しいでしょ。
山下 みんな来りゃいいのになって思いますよ。20代終わりぐらいから50ぐらいまで、みんな地方にいた方がいい(笑)。
外山 本田さんも北九州に戻って、陽光さんは長崎にいるしノラネロさんは鹿児島にいるし、あちこちに点々とヘンな人たちが住んでて、たまに行き来しながら、普段はそれぞれ堅実に“地方の生活”をしてる、ってのがいいと思います(笑)。
山下 どうやってカネを稼ぐかって問題は大きいからなあ。高校を出てすぐ東京に出て、そのままずっと東京で暮らしてるような連中には、地方で食っていくイメージが湧かないと思うんですよ。具体的にこうやって食ってるってとこも含めて、もっと発信した方がいい。
外山 ぼくはずーっと九州にいるでしょ。四半世紀ぐらいかけて、九州各地に「これは!」っていう“ヒトカドの人”たちを見つけてるから、そういう人たちをぜひ陽光さんにも引き合わせたいよ。そのうちツアーしませんか?
山下 あ、いいですね。
外山 鹿児島市から30キロぐらい離れた地方都市で、こないだレゲエバーをまた1軒見つけて、入ってみると坊主頭の女の子が店員にいるんだ。福岡とか、せめて鹿児島の市街地ならまだしも、鹿児島の郡部で坊主頭の若い女の子が暮らすのはかなり“生きづらい”んじゃないかと思うんだけど(笑)、楽しくやってるみたいでしたよ。
山下 大村にもこの1つ裏に新宿ゴールデン街みたいな通りがあるんですけど、まだ怖くて行けてないんです(笑)。そこにも意外といろんな人がいるかもしれない。
外山 たぶん夕方散策した通りだ。あれが“大村のゴールデン街”だったのか(笑)。
山下 あ、ずっと録ってるんですね。
外山 ローカル局の旅番組のロケみたいだ。
山下 あそこに「ほっともっと」って店がありますよ(笑)。
外山 こっちには「モスバーガー」って店が(笑)。