『人民の敵』第4号(2015.1.1発行)


コンテンツ3
〈座談会〉with スガ秀実・鴻英良
〈正規版“購読”検討用・抜粋〉


 まず議論を起こそうっていう発想なんだよ、シュリンゲンジーフは。で、ふだん劇場には足を運ばないような一般の通行人と接触する手法をとることによって“騒ぎ”を起こす。実際に“騒ぎ”になるんだ。通行人はいっぱいいて、集まってくるから。そういうことをいくつかやってる。「チャンス2000」というのも彼の一連の活動の一つで、それは西暦2000年に向けてドイツがどう変わっていくかというテーマでおこなわれた。98年だかにドイツの連邦議会選挙があったんだけど、その前年に「チャンス2000」というグループを立ち上げて、「我々は選挙に出る」と云って選挙運動を始めるんだよ。いろんな人に立候補を打診して、結構な数の人間を集めて選挙演説とかするんだけど、プロジェクト全体の標語があるんだ。「自分自身に投票せよ」っていうのがそれで、つまり投票する人は自分の名前を書いて投票しろ、と。その結果、無数の名前が投票用紙に書かれる。もちろんそんなことをしたら誰も当選しないよね(笑)。正確な人数は知らないけど、かなりの数がこのプロジェクトに参加したみたいで、全国の選挙区に立候補者を立ててた。結果は全員落選だし、“敗北”するんだけど、彼らの呼びかけに応えて3万5千人だかが“自分に投票”したらしくて、かなり大騒ぎになったんだよ。……とまあ、そんなようなことをやってる人で、そのドキュメンタリーの上映会を最近やって、それを観た後におこなわれたシンポジウムで私が、外山さんの都知事選のことを思い出したって話をしたんだ。都知事選に出て、1人で1万5千票を集めるじゃないですか。泡沫候補としてはだいぶ上の方だったでしょ?
外山 そう云ってもいいのかな。あの時は桜金造(コメディアン。80年代初頭に「アゴ&キンゾー」としてブレイクしていた)も出てて、桜金造までは、泡沫候補の扱いとはいえある程度はマスコミ、というかワイドショーなんかで取り上げられてたから、そこそこ得票して……。
 供託金も取り戻せたの?
外山 いや、没収されてるはずです。
 じゃあ「そこそこ」ってどれくらい?
外山 数万票、でしょうね(註.約7万票)。
 彼の下にまだ何人かいるの?
外山 えーと、順番で云うとまず石原(慎太郎)がいるでしょ。で、あの時の対立候補が誰だっけなあ……。あ、元宮城県知事の……浅野史郎だ。その次がたぶん共産党の人で、次が黒川紀章かな。で、その次がドクター(中松)で、桜金造で、次が唯一の女性だった泡沫候補で、その下にやっとぼくです。ぼくの下にもまだ6人ぐらいいた。
 じゃあ真ん中あたりにいたんだ。供託金は没収されたんでしょ?
外山 もちろん(笑)。
 何票ぐらいが没収ラインなの?
外山 有効投票の1割です。共産党ですら時々没収されてます。
 じゃあドクター中松なんかも……。
外山 もちろん没収されてます。黒川紀章も没収されてるはず。
 そうなのか。しかし供託金制度なんてものは必ずしも多くの国にあるわけではなく……。
外山 日本と韓国ぐらいじゃないですか、こんなに高いのは。異常ですよ。
 事前にちょっと調べてきたんだけど(笑)、もともとイギリスで始まった制度らしくて、もちろん理由ははっきりしてるんだ。誰もかれもが立候補されても困るわけで、ある程度の制約を設けなきゃいけない。だけど金額は50万とか、それぐらいなんだよ。日本みたいに3百万なんて、そんな高額ではない。
外山 今は欧米はもっと安くなってるんじゃないですか?
 うん。20万ぐらいが平均的だったように思う。
外山 国政選でもそれぐらいですよね。
 供託金制度が存在する国の場合ね。ところがドイツはゼロなんだ。供託金制度がない。
外山 ということは、「自分自身に投票せよ」というのは、それぞれが本当に立候補するってことですか?
 いや、そうではない。供託金は要らないんだけど、国政選で、例えばバイエルン州とかから出るとする。そのためには2百人だかの署名が必要なんだよ。2百人なら、それなりに活動して、支持してくれる人を熱心に説得して回れば、可能な数でしょ。お金もそんなにかからないと思う。私も最初、「供託金がかかるんじゃないですか?」って訊いたんだ。そしたら「ない」って云うんだもん(笑)。「署名」が重要なんだって。
外山 それは要するに……。
 実際に支持者を抱えてるって証明だね。
外山 ですよね。日本の泡沫候補によくいるような、なんというか、キテレツな人たち(笑)、彼らには2百人の署名は集めきれないでしょうからね。
 うん。そういう人たちとは違うってこと。
外山 フランスの例だったと思うけど、大統領選か何かに数万円の供託金制度を導入しようとしたら、反対が多くて導入できなかったと聞いたことがあります。やっぱり無意味かつ不当な立候補制限ですよ。


スガ 何だったっけ、「こんな国……」
外山 こんな国、滅ぼしましょう原発で。
 それはまったく科学的に正しい論法だ(笑)。私も昔、冗談で「東アジア反日非武装戦線・原発推進派〈羊〉」っていう組織を作ろうとか云ってた。
外山 ヒツジ?
 うん、〈狼〉じゃなく。
外山 あ、なるほど(笑)。
 「武装戦線」ではなく「非武装戦線」。つまり原発さえ推進していれば、とくにあえて何もしなくても、この国は終わりますよっていうね(笑)。それはもう科学技術的に、20年か30年のうちにもう1回どこかで大事故は起きるだろうし、百年ぐらいのスパンで見れば終わりますよ。山本義隆(元東大全共闘・議長)も、あの人はそもそも科学者だから……。
スガ まあね。
 科学者ですよ、あの人は。原発についても非常に常識的かつ正しいことを山本義隆が云ってます。原発問題についても1冊書いてて(『福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと』みすず書房・11年)、極めて単純なことを云ってる。原発事故は必ず起きるし……。
スガ それは誰だって分かることじゃないですか。実際このかん、20年に1回ぐらいのペースで起きてるんだから。
 だけど「原発事故は起きない。安全だからやりましょう」って話になってるわけでしょ。
スガ 実際にスリーマイル、チェルノブイリ、福島で……。
 全世界で3回だけじゃないですか。
スガ 1回でも起きたら大変なんだから(笑)。
 いや、それを「大変だ」と思いますかって問いかけてるのが山本義隆なんですよ。「それでいいんですか?」って。「原発事故は必ず起きます。しかし、いつどこで起きるかは分かりません」と。
外山 確率の問題ですからね。
 「我々の近くですぐにもそれが起きるか、なんてことは分かりません。それでいいですか?」って問いかければ充分なのに、原発反対派もそういうふうにはやっていない。最も単純な問いかけに還れば、そこから議論が始まる。
スガ おれは必ずしもそうは思わないけどなあ。鴻さんの今の見解にはやや反対だけども……まあ、いいですよ今日は。
 何ですか、せっかくだから云ってくださいよ(笑)。
スガ つまりそんな問いかけをしたところで、原発は増えるんです。
 増える?
外山 世界的には、ってことですね。
スガ うん。
 単純な問いかけがおこなわれず、どこにも届かないから増えてる。
スガ いや、問いかけが届いたところで「自分たちの近くでは事故は起きない」と思うから増えてるんだろうし、なおかつそういうこととはまったく別の論理で増えてるわけですよ。それこそ資本主義の要請で、いくら問いかけても、もっとはっきり云えばいくら脅しても、原発は増えていくんです。
外山 世論とかで増えたり減ったりしてるわけではない、と。
 つまり資本主義は崩壊するって云ってるわけですね?
スガ そりゃ原発で崩壊する可能性もあるでしょう。
 崩壊するんです。原発がいずれ爆発することは、はっきりしてるんだから。
スガ ただし先進国では減りますからね。
外山 大体やめる方向ですよね。
スガ 脱「原発依存」の方向であることは先進国ではもうほぼ決まってる。
外山 だからこそ輸出したがってるんでしょうし。
スガ ただ問題は中国が沿岸部にいっぱい建ててることで、あそこで事故が起きちゃうともう日本は……(笑)。
外山 PMナントカでもう、すでに大変だっていうのに(笑)。
スガ そこらへんは安倍ちゃんのブレーンの北岡伸一も云ってるよね。「おまえら、日本の原発をどうこう云ってるけど、中国沿岸部に原発がズラーッと並んでたら同じことじゃないか」って。もちろん彼はそれで中国の原発を問題にしようというわけではなく、単に日本の反原発派を脅してるだけなんですが。反原発運動なんかやっても意味ないよ、と云ってる。
外山 まあ、かなり正論ですよね(笑)。
スガ そうなんです。おれの考えとも一致してる(笑)。
 韓国の原発はもっと日本に近いですよ。
スガ 韓国であれ中国であれ事故が起きたら、いくら日本国内で原発をやめてたって、あまり関係ないもんね。
外山 韓国ならまだ世論で原発をやめる可能性もあるけど、中国にはそれも期待できませんしね。


外山 ぼくはどうもスガさんの云うことをまだよく理解できていないような気がするから訊くんですが、資本主義の論理がなぜ原発を推進することになるんですか? だってもともとは軍事技術で、利潤を生むようなものではないでしょ?
スガ それが50年代あたりに「平和利用」ってことになるわけですよ。
外山 でも「平和利用」はそもそも“云いわけ”ですよね。本当は、軍事上の必要から核技術の水準を維持しなければってことでしかないんだし。
スガ だけどレーニンだって「共産主義とはソビエト+電力だ」って云ってたんだし、どうすれば電力の供給量をどんどん増やせるかとなれば、やっぱり原子力だってことになるわけですよ。そういう生産力重視の姿勢は歴代のアメリカ大統領だって同じ。
外山 だって原発は1基あたりせいぜい何十年かしか動かせないわけでしょ。次々に新設していくとしても、放射性廃棄物はどんどん溜まっていく一方だし、その処理とか廃炉の費用を考えたら、資本主義的にもワリは合わないことは最初から分かってるはずじゃないですか。
スガ うん。そのことを先進国はだんだん理解し始めて、脱原発の方向になってるわけです。
 やっぱり最初はよく分かってなかったんだよ。実際に稼働してみて、どうも廃棄物の処理なんかはうまく行かないようだって気づき始めた。
外山 見切り発車だったってことは分からなくもないんですが……。つまり、何十年かやってるうちに核廃棄物を処理する技術も確立されるだろうと楽観視してたってことですよね。
スガ その典型が武谷三男で、最初はバリバリの推進派だったのが、どうもダメみたいだと思い始めて、70年前後に反対派に転じる。
 今日はこの話を続けるんですか?
スガ いやいや、そういうつもりではなかったんだけども(笑)。
 続けちゃうけれども、66年に茨城県東海村で大型原子炉が、実験炉なんだけれども、とにかく日本で初めて稼働して……。
スガ その原子炉が今、(自分が勤めている)近畿大学にあるんだよ(笑)。
 そうなの? 廃炉にしてから持ってきたってことかな。……とにかく実際に原子炉を動かしてみて初めて分かることもいっぱいあるわけだよ。高木仁三郎が原発から手を引くのも73年ぐらいのことだし、つまり何年かやってみて、実際にどういうことが起きるのかを知る。その上でやっぱり原発はダメだって判断して、高木仁三郎は73年に「原子力情報資料室」を作って反原発運動を始めるわけじゃないですか。
スガ 世界的には70年前後から原発に対する疑問が上がり始めて……。
 そうだけど、日本ではまだ分からなかったんです。
スガ 若手の核物理学者たちが東北大での学会で初めて原発批判のビラをまいたのが1970年。
 だからその頃からだんだん気づき始めたんだよ。それに、うすうす気づき始めたとしても声を上げる決断をするまでに時間のかかる人もいるわけだし。
外山 66年に始まった日本の原発に、疑問を持つ人も70年ぐらいから次第に現れて、73年に本格的に声を上げる、と。
 そういう感じ。
スガ まず物理学者の一部から批判の動きが始まる。鴻さんも外山君も百も承知だとは思うけど、文学者も含め芸術家たちは当時まったくそんな問題意識を持ってなかった。
外山 スガさんが云うように、「太陽の塔」は原発の象徴なんですもんね(笑)。
スガ 「原子力の平和利用」のシンボル。
 大阪万博がちょうど70年ですね。
スガ だから岡本太郎が反原発のはずがないんです(笑)。最近の美術家たちはそこを歪曲してるから、おれは批判している。
 66年の東海原発に続いて、70年に敦賀原発が動き始める。
スガ 敦賀から万博会場に電気を送った。大阪万博は「原発元年」とも銘打たれたんです。
 で、翌71年に福島原発の1号機が運転開始して、その後はもう次々とあちこちに建てられるんだけど、その頃になると危険性に気づく人たちも現れ始めていた。
スガ しかし原発の歴史の話を今日ここでやっても仕方ないですよ(笑)。
 まあそうなんだが(笑)。


 シュリンゲンジーフはさっきも云ったとおり、フォルクスビューネっていう劇場の人間だったわけです。
外山 “演劇人”ってことでいいんですか?
 うん。で、フォルクスビューネってのは東ベルリンを代表する、ベルリン市の市立劇場なのね。東京芸術劇場みたいなものなんです。そこの主要演出家なんだ。もう1人、カストルフって演出家がいて、シュリンゲンジーフより少し上の世代なんだけど。ともかくシュリンゲンジーフには自分の劇場があって、もともとはそこで活動してる人。それがウィーンの芸術週間っていうフェスティバルに呼ばれて、そこでの主要な企画の一つとして「外国人よ、出て行け!」をやったわけだ。そもそもウィーン芸術週間というのはヨーロッパのいろんな芸術フェスティバルの中でも有名なものの一つで、ものすごく重要な場なんだよ。ウィーン市が市を挙げてやってるフェスティバルで、私に云わせれば、つまり「守られてる」わけね。だからこそ巨大規模でやれる。だってウィーンのオペラ座の前の広場でやるってこと自体が、日本で云うと例えば東京芸術劇場の前の、池袋駅西口広場を全部使うようなものですよ。
外山 “豊島区公認”みたいな感じで……。
 うん、いや、“東京都公認”のレベルですよ。つまりシュリンゲンジーフの場合は、劇場の制度の中の人間が、劇場の外へ出て行ったという形だね。それを違法行為としてやったのが寺山修司ですけど。寺山の場合は……。
外山 何の許可もなく(笑)。
 無許可でやってたでしょ、全部。だけどシュリンゲンジーフは、他の企画もたいてい許可された上でやってるんです。
外山 「外国人よ、出て行け!」以外にはどんなことをやってるんですか?
 ハンブルクでやったのが、ハンブルク中央駅って大きな駅の前に広場があって、その向かいに道路を挟んでシャウシュピールハウスっていう伝統的な劇場があるんですが、そこの企画として何かやらないかと云われて、打ち合わせをするうちに、せっかくなら劇場の中でやるんじゃなく、駅前の広場にはホームレスやジャンキーといった人たちがたくさんいて、暮らしに困っているようだし、彼らを助けるための場所を駅構内の空いたところに作って、寝泊まりもできるようにしよう、そしてそのことを通してこの問題について考えるってことをやろう、という話になったんだね。そういうシュリンゲンジーフの提案を、劇場側が許可した。で、そもそも劇団だし、かなりの人数もいるから、いろんなことができるんだ。炊き出しもやって一緒に食事をしたりしながら、彼らがどうしてそういう境遇に至ったのかってことも含めて、みんなで議論する。それまで一般的に、何かウサン臭い連中が駅前広場をウロウロしてるって認識だったのを、もうちょっとちゃんと社会問題化しようってことで、何日目かにはデモ行進をして、目抜き通りを10分ぐらい歩いたところにあるハンブルク市庁舎まで行って集会を開く。その集会の許可は取ってなかったんだ。ところがそれらの過程で警察といろいろやりとりをしてたようで、いつのまにか許可が下りてるんだよ。そこらへんが私にも経緯がよく分からなかったんだけど(笑)。
外山 無許可でデモと集会を始めてしまってから、事後的に許可が下りたってことですね。
 うん(笑)。で、市長に面会を求める。その場では市長は他に用があったらしくて出てこなかったんだけど、後でやってくるんだ。つまり、みんなが集まって寝泊まりしてる場所にね。それで市長ともいろいろ議論をして……。これは「演劇活動」としておこなわれてるんだけど、具体的に政治家と接触してるわけですよ。市長と話し合うなんてことをやってる。
スガ 平田オリザもやってるんじゃないの?(笑)
 それは自分のために補助金をくださいっていう接触じゃないか(笑)。そういう人は日本にもいくらでもいますよ。そうじゃなくて、「あなたがたの政策はおかしい」って告発しに行ってるわけだ。そしてその告発されてる当の政治家が議論の場に入ってくるんだから、補助金の交渉とは全然違います(笑)。
スガ 市長はどういう政治的立場の人なの?
 それはよく知らない。
スガ 右派だったのか、左派だったのか。左派なら議論しに現れても不思議ではないけどね。日本でも民主党政権で、菅(直人)ぐらいだったら来そうだよ。
外山 世田谷区でやれば……。
スガ 保坂(展人。世田谷区長)は来るね(笑)。
 ハンブルクってドイツで2番目に大きな都市だよ。だから都知事か、京都市長・大阪市長ぐらいのレベル。
外山 橋下(徹)が来るようなものなんだ。
 そうそう(笑)。
スガ 橋下だって面白がって来そうだよ(笑)。


外山 そう云えば「イエスメン」っていうグループも日本ではあまり話題になってないですね。アメリカの……。
スガ あ、知らない。
外山 たしかWTOのサイトにそっくりな偽サイトを作って、よく見れば偽サイトだと分かるみたいなんだけど、一見かなり紛らわしいサイトで、それを本物だと思って各国から講演の依頼がきたりするらしいんです。もちろんそれらを断らずに、ビシッとスーツを来て、WTOの広報の幹部のようなフリをして本当に講演しに行っちゃう(笑)。で、ものすごく過剰な、グローバリズムやネオリベの礼賛演説をやる。かなりグロテスクなレベルの礼賛で、要は一種のホメ殺しなんです。彼らを本物だと思って話を聞きに来てる聴衆は当然、そのテのヤな感じの経営者とか、金持ちばっかりなんですよ。例えば第三世界に工場を作ったはいいけど、現地人は労働者としての規律訓練ができてないから、とにかくすぐサボるでしょう、と。そこで生産性を上げる新しいシステムを提案したい、とか云って、先進国のオフィスに居ながらにして現地の労働者1人1人を手軽に監視できる装置を開発しました、みたいな嘘の報告に、聴衆が「素晴らしい!」って反応するのを全部撮ってレポートするんです(笑)。ドキュメンタリー映画にしてるのかな。
スガ そういうのがあるんだ。
外山 ブラックな内容のデタラメ報告をするのを、本物だと勘違いして記事にした新聞もあるらしい(笑)。
スガ ある種の芸術的アクションなんだ。
外山 ただまあ、思想的にはヌルいですよ。フツーの微温的なリベラル左派の反グローバリズムです。やり方は面白い。他にもイラク戦争の真っ最中に「戦争終結!」って大見出しのニセ号外を街頭で配布して、「イラク制裁」を支持する好戦的なアメリカ人であるはずの人々が実は意外にもフツーに喜んでる様子を撮ったり。
 今の話を聞いてて思ったんだが、ぼくは今日、シュリンゲンジーフのような芸術家が政治活動や社会的運動に飛び出していくっていう話をずっとしてて、その実態について説明してきたでしょ。それに対して外山さんは、逆に政治活動が演劇性や芸術性を帯びていく、という話をしてるじゃないですか。ところがギリシア悲劇というのは、実はもともと政治活動だったんですよ。我々が知っているギリシア悲劇というのは……。
外山 演劇というジャンルが成立してから、事後的にそこに回収されたために、演劇という枠組でしか認識できなくなってしまったものでしかないということですね。
 うん。ベンヤミンなんかも云ってるんだが、「罪の靄の中からゲーニウスという人間の言語的批判精神が立ち現れてきたのは、法の中においてではなくギリシア悲劇の中においてであった」と。法の以前に悲劇があったと云ってる。法という政治的なシステムが作り出される前に悲劇という演劇的な活動があって、今ではそれを我々は芸術というふうに捉えてしまうけれども、それは普通に我々がイメージするような、政治の後から出てくる芸術ではないんだよ。神話批判だとか、ホメーロスを改変するとか、そういうことをやっていく中から対話的形式というものが生み出されて、それがやがてポリスを形成していくというね。ポリスが形成されると同時に演劇はポリスの中に内包されるんだけど。
スガ それはそうだよね。
 そういうことを考えると、外山さんの最近の活動についても、つまり芸術の根源としてのありようを……(笑)。
スガ 芸術から政治へという流れではなく、政治から芸術へというところに、むしろ回帰してるわけだ。
 始源的な時空間にね。


外山 ぼくはもしかしたらよく分かっていないかもしれないんで、初歩的なことを再確認することになっちゃうかもしれないけど……。ぼく自身も「アメリカと手を切らなければ原発はやめられない」という気がしていて、実際そう何度も云ってる。たぶんスガさんもそういうことを云ってると思う。だけどその意味するところは違ってるかもしれないんで、スガさんはどういう意味でそう云ってるのか、改めて訊きたい。
スガ 日米原発マフィアの利権ですよね。
 アメリカ資本主義にとって、日本に原発を次々と作らせることは利益なんです。
外山 それは今、日本が第三世界に原発を輸出して儲けようとしているように、これまでのアメリカも日本に原発を輸出して儲けてきたってことですか?
 原発をやるためのいろんな技術があるでしょ。そのライセンス料というか、原発って云わば“生産工場”が日本にあるってだけで、それを建設して稼働させるに際してのさまざまな技術やノウハウの権利があって、日本は莫大なお金をアメリカに払ってるわけですよ。日本に原発を1基作るごとに、ゼネラル・エレクトリック社にこれだけのお金が入ってくる、みたいなしくみがある。それから、今もトルコに原発を輸出するとか云ってるけど、すでにリトアニアに日立・東芝で原発を作るって話が決定してる。リトアニアとしては、ドイツやなんかに電力を売って儲けたいと思ってる。
スガ ドイツは原発をやめたとか云っても、外国の原発で作った電気を輸入してたりするんだから(笑)。
 とにかくいろんな国に日本の原発を輸出しようとしてるけど、肝心の日本で原発を再稼働しなかったら「やっぱり危険なんだ」って思われちゃうから、輸出するためにも再稼働しなきゃいけない。だから再稼働を急いでるわけです。
スガ ベトナムにも輸出が決まったでしょ。
 2基ね。
外山 リトアニアやベトナムの人たちは、歴代起きた大きな原発事故を3つも4つも見て知ってるはずなのに……怖くないんですかね?
スガ 怖くないんでしょう(笑)。
 リトアニアはあまり地震も起きないしね。しかしトルコは地震国で、トロイアが地震で壊滅したようなとこでしょ。
スガ 中国だって大きな地震はよく起きてるよ。
 私が計算したわけではないけど、確率論的計算によると、仮に今ある日本の原発をすべて再稼働したとすれば、だいたい10年に1度の頻度でどこかで過酷事故が起きるらしい。「原子炉年」というのがあって、今回の事故は日本が原発を始めて約40年目に起きたわけだけど、日本国内の原発で巨大事故が起きる確率は、国内に原発がいくつかあるかによって違うでしょ。国内に2、3基の時と10基の時と50基の時とでは確率は全然違ってくる。原子炉数×年数で「原子炉年」と云って、例えば10基の原発を10年動かすのと、1つの原発を百年動かすのは、どちらも「百原子炉年」動かしたってことになる。
外山 昔、広瀬隆の本で読んだことがあります。1つの原発を仮に耐用年数の問題がなく延々動かし続けられたとして、大事故を起こす確率はせいぜい何千年だか何万年だかに1回ってことになってるんで、だったら安全だと思うかもしれないけど、まあ仮に1万年に1回だとしたら2基あれば5千年に1回になっちゃうし、百基あれば百年に1回になってしまう。で、当時すでに世界中にこれだけの原発があるから、おそらく今後は10数年に1度、世界のどこかで大事故が起きるでしょうって書いてあって、チェルノブイリから10数年だったら20世紀中に起きる可能性が高いんだと思ってビクビクしてたんだけど(笑)。
スガ まあ技術も進むからね。
 技術が進む一方で老朽化も進むんだよ。
スガ うん。しかも延ばしてるよね。耐用年数は40年だったはずなのに、もう10年動かしたい、いや20年動かしたいとか云って(笑)。
 だから当然、老朽化による事故の危険性は高まる。もともと70年代初頭の初期の反原発運動は、労働者の被曝を問題にしてたんですよ。過酷事故が起きるから反対してたわけではないんだけど、今はそういうわけにもいかない。


スガ 最近、学校教育法の改正が問題になってて、『現代思想』でも大学特集が組まれたりしてたじゃないですか。簡単に云えば国立大学での教授会の自治がなくなるってことですよね。そのことでわりと騒いでるじゃないですか、教員どもが。
 うん。
スガ 内田樹とか森永卓郎とか、けっこう著名な連中が発起人になって、7千人以上の大学教員たちの署名を集めてる。まあ、署名だけは集まってるってことでしかなくて、当然、教授会の自治なんか今後もどんどんなくなっていきますよね。
 もちろん。
外山 教授会の権限が縮小されるような法改正なんですか?
スガ 自治組織ではなく、学長の諮問機関って位置づけになるみたい。だけどそういう問題って、学生には関係ないわけでしょ。教授たちだけが騒いでるんだよ。そもそも全共闘運動では、教授会の自治なんかナンセンスだって云ってたわけじゃないですか。
 そうだね。
外山 60年安保では教授と学生が共闘関係にあったけど、全共闘では……。
スガ 教授たちは敵だ、っていうのが“68年”だったんだよ。それがいつのまにか後退して、「教授会の自治を守れ」とか云って大騒ぎしてるわけだ、リベラル派の教授どもが。
外山 教授会の自治どころか、学生自治会すら全共闘が否定したのに(笑)。
スガ おれの周りにも署名してる奴がたくさんいるし、たぶん鴻さんの周りにもいるだろうけど……。
 で、彼らは署名を集めてどうしようっていうの?
スガ 何にもないでしょう。そもそも署名集めしかやってないんだもん。
 それこそビラをまいたらいいんじゃない?
スガ ビラもまいてないですよ。
 だからまけって提案するんだよ(笑)。教師が大学でビラをまき始めると、学生もビラをまいてOKってことになるかもしれないし(笑)。
スガ あ、それはいいですね。
外山 正門前で教授がビラをまいてる、ってのはいいかもしれない(笑)。
 ビラまきを推奨するといい。
スガ そうだね。
外山 だって教授たちがビラまきを始めれば、その同じ大学で今度は学生たちがビラをまいた時に、それを規制する根拠がちょっと揺らぎますよね。
スガ そうだそうだ。
 うん、揺らぐね(笑)。
スガ 国立大はまだ緩いけど、一般的に私立大学はもう学校の許可がないとビラもまけないんですよ。それを教員がやったとしたらどうなるのか、ってことか。それは面白いね。
外山 教授たちのビラまきを突破口にして、学生がビラをまく自由を奪還する(笑)。
スガ そうだね。あっというまに結論が出ちゃった(笑)。なるほどなるほど……教員が決起するというのはいいかもしれないな。
外山 万一当局が「ビラまいちゃダメだ」と規制してきても、法学の教授もいっぱいいるだろうし、どんな学生より理路整然と対抗できるでしょう(笑)。