この12作品を読んで考え悩み憤れ!
(2007年ごろ作成)

生田武志『ルポ 最底辺』(ちくま新書)
 もともとホームレス支援の運動に関わってきた著者は、近年の派遣労働、フリーター、ネットカフェ難民といった新しい現象を、ホームレス問題の拡大・一般化として分析する。もはや「自己責任」などと云って解決するような段階ではないし、著者らのような左翼だけでなく、右翼側も「国民的一体感」を解体してしまう格差社会化について深刻に考えるべきだろう。
 斉藤貴男・林信吾『ニッポン不公正社会』
               
(平凡社新書)
 本書もまた格差社会化の進行に警鐘を鳴らす。公正な競争の結果の不平等であればまだしも、現代の日本では階級社会化が進み、親の世代の格差がそのまま子の世代に継承されてしまう、格差が世代を超えて固定するしくみができあがりつつあるというのが著者らの分析。対談形式なので、両者が思いつくままにさまざまの現象に言及し、読者の想像力を刺激する。
五十嵐太郎『過防備都市』(中公新書ラクレ)
 格差社会化と同時に監視社会化も進行している。気がつけばどこもかしこも監視カメラだらけ、しかもそれは国家主導ではなく、治安の悪化に脅える一般市民が率先して実現してきたものだ。「安全・安心」もいいが少しここらで冷静になってみるべきではないか。本書を読めば、世の中かなりマズいことになっていることが実感できるはずだ。
 浜井 浩一・芹沢 一也『犯罪不安社会』
               
(光文社新書)
 監視社会化の背景には治安の悪化がある。とたいていの人が思うだろうが、実は治安はとくに悪化していないことを本書は明らかにする。きちんとデータを調べてみれば、少年犯罪は減少の一方だし、凶悪犯罪の件数もやはり減る一方である。ではなぜ治安が悪化しているように感じるのか。マスコミの報道姿勢が、不安を煽るセンセーショナルなものに変わったからだ。
三浦展『ファスト風土化する日本』(洋泉社新書)
 ファスト風土化とは日本の地方都市の風景がどこもかしこも同じような均一的な(大型ショッピングモール、コンビニ、ファミレス、パチンコ店、その他さまざまのチェーン店が立ち並ぶ)ものになっている現象を指す著者の造語。それは単に古き良き景観が失われてゆくというノスタルジックな問題ではなく、そこに暮らす人々の精神に深刻な影響を及ぼすもっとヤバい現象ではないのか、という話。
 森健『インターネットは
  「僕ら」を幸せにしたか?』
(アスペクト)
 かなり初期からIT関係の取材を続けてきた著者が、その負の側面を論じた本。ネット社会化の進行は、労働者の管理を容易にし、また監視社会化を後押しする。かつて云われたのとは正反対に、価値観の画一化をも招く。いったん確立された技術は後戻りしないし、どうすればいいのかとまずは悩め。
高木仁三郎『核時代を生きる』(講談社現代新書)
 我々団は「核武装賛成、原発反対」の立場である。そもそも原発は、核兵器開発を戦後も続けようとしたアメリカがその一部を民間に負担させるためにムリヤリ始めたもので、さまざまのもっともらしい原発必要論はすべて後付けの屁理屈である。核兵器は仕方ないから持つとしても、リスクを日常化・遍在化させる原発には断固反対すべきだ。品切れなので図書館で。
 槌田敦『環境保護運動は
  どこが間違っているのか?』
(宝島社新書)
 最近ようやく地球温暖化論への異論も陽の目をみるようになってきたが、本書はその先駆けをなした名著。著者は頑固なエコロジストで、世間に流布するいい加減なエコロジーに猛烈に怒っている。温暖化説は原発推進派の陰謀だし、ゴミの分別やリサイクルにはまったく意味がないなど、世間の常識を覆す“過激な正論”をぶちまくる。
森達也『「A」』(角川文庫)
 急速に進む監視社会化・管理社会化の原点は、世界的には「9・11」だが日本の場合は間違いなく95年のオウム事件である。人々の不安を煽るマスコミのセンセーショナリズムもオウム事件で定着した。原点にさかのぼって問題を直視しなければならない。著者はドキュメンタリーの映像作家であり、本書も映画作品の書籍化である。映画版『A』も必見。
小浜逸郎『「弱者」とはだれか』(PHP新書)
 このコーナーでは左翼の著作ばかり紹介しているが、それは現状の右翼勢力が格差社会化や監視社会化という最重要課題への取り組みをサボっているからである。しかし弱者救済を名目に、一方で管理社会化を推進してきたのは左翼であることを例えば本書で確認しておこう。格差社会問題を左翼の専売特許にしてしまえば、事態はますますマズい方向に展開しかねない。
呉智英『賢者の誘惑』(双葉文庫)
 呉智英にはとくにこれをという代表作がない。とにかくどれでもいいから何冊かは読んでおけという意味でとりあえず本書を挙げておく。左翼的な正義が、一見正論であっても常にろくでもない結果をもたらしてきたことが、これでもかとさまざまの例を挙げて論証される。左翼への免疫をつけておくべし。
 東浩紀・大澤真幸『自由を考える』
              
(NHKブックス)
 最後は少し初心者には難解な本だがもっと初心者向きの類書がないので。近年の監視社会化を思想的・哲学的に語り合っている。解決策は提示されないが、現状分析にはさすがに鋭い点が多々ある。まあ結局、我々の掲げるファシズムの方向以外に本質的な解決はないということなのだが。