脚本 『アリババが40人の盗賊』4

 (ふたたび照明がつくと、舞台上にはテロリスト3人と川上)

近藤 奴ら、マジメに考えてますかねえ。
秋山 さっき覗いてみたらドサクサに本来の芝居を上演しようとしていたようだが。
里美 だいぶ様子は変わってるみたいよ。
近藤 さっきの脅かしが効いたな。
里美 どこ見てんのよ、バーン!(と指鉄砲で川上を撃つ仕草)
川上 なんかぼく、徹頭徹尾なさけないキャラにされてません?
秋山 囚われの分際でツベコベ云わない。
近藤 cc退屈だ。
里美 はーん、またアレをやりたいのね。
秋山 アレか。
里美 近藤クンもほんとに好きねえ。
近藤 ついハマってしまって……。
秋山 しばらくやることもないし、一丁やってみるか。
近藤 そうこなくちゃ。
里美 でも人数足りないよ。
秋山 まあ一人は(川上を指して)コイツを入れるとしても、最低もう一人必要だな。
川上 ぼくに、な、何をやらせるつもりですか。
秋山 心配するな。発想力・想像力の訓練を兼ねた我々の遊びだ。
 自由な発想と豊かなイマジネーションは、テロの基本だからな。
近藤 谷口を呼んできましょう。

 (近藤、出ていく)

里美 近藤クン、やる気満々ね。

 (近藤、谷口を連れて戻ってくる。黒子も一人登場。手分けして椅子を6個、その他道具持参)
 (椅子をヨコに並べる)
 (秋山、紙とペンを全員に配る)
 (このあたりからBGM。客が音楽に気をとられないよう、本当にBGM的なものがよい)

近藤 ワクワクするなあ。
秋山 音にして5文字の言葉を、上の方に縦書きで書け。なんでもいい。
川上 スイカップ……。
秋山 口に出すな!
 何を書いたか他の者には見られないように。別に名詞の単語じゃなくてもいいぞ。
 「春の海」とか「さすらいの」とか、とにかく音が5つぶんの言葉なら何でもいい。
 スイカップはもう聞こえちゃったから他のにしろ。
 ……書いたか。書いたら、その部分をクルクルと丸めて、何が書いてあるか見えないようにして、
 隣の者に渡せ。

 (紙を回す)

秋山 では次は、そのクルクル巻いてあるすぐ下に、続けて何か7音ぶんの言葉を書け。
 さっきと同じく、他の者には見えないようにな。
谷口 分かったぞ。俳句みたいなものを作ろうとしてるんだな。
秋山 さすがに察しがいいな。しかし俳句じゃなくて短歌だ。
 偶然の力を利用して、自分一人では思いつかないような奇抜な短歌を作る。
谷口 ってことは、5・7・5・7・7だから、今は上から2番目の7文字を書いていることになる。
秋山 そのとおり。なかなか飲み込みが早い。
 それが分かれば、全体の構成を念頭において、言葉を選ぶこともできるな。
谷口 書いた。
秋山 では隣の者に回せ。次は5音だ。

 (以下、「次は7音」「最後の7音」と秋山が指示を出しながら完成させる)
 (最後の7音を書き終えたら、それをさらに隣に回させる)

秋山 それでは読み上げる。まず私から行こう。

 (秋山から始めて、それぞれが読み上げる)

秋山 川上も谷口も、流れは理解したな。
 ではもう一回最初からccいや、本当はもう一人いた方が面白いんだ。
 最後に、自分が関与してないやつを読めるからな。
近藤 客を参加させましょう。
里美 積極的ね。
秋山 よし。(客席に)誰か志願する者はいないか?

 (客から二人参加させる)

秋山 谷口は抜けろ。
谷口 ええっ、面白いのに……。
秋山 後でもっと面白い他の任務を与えてやる。

 (とりあえず谷口に紙を配らせる)
 (客2人を交えて2回ほどやる)

秋山 今日はこんなところだな。

 (客をかえす)
 (BGMも止まる)

近藤 えー、もうやめるんスか。
里美 こればっかりじゃ芝居が進まないでしょ。
秋山 じゃあ谷口。おまえに重要な任務を与える。
谷口 よし、任せろ。
秋山 ここに全部で17個の、わけのわからない短歌モドキができた。これに、意味を見いだせ。
谷口 えっ、どういうこと?
秋山 ムリヤリ何らかの意味を読みとるんだよ。
 これでもうおまえの出番はないし、演出家は本番中いくらでもヒマがあるだろう。
 じっくり考えて、後でそれを発表しろ。
 たしか脚本の外山ってのもどこかにいるんだろ? あいつにもやらせとけ。

 (照明、消える)

アリババが40人の盗賊